胚をためることの意義

昨今、新型コロナウイルスの影響により社会では様々なところで自粛が求められています。当院でも例外に及ばず移植などを見合わせておりますが (新型コロナウィルス感染症拡大に対する当院の考え方)、採卵は行っており、胚(受精卵)の貯蓄をお勧めしています。今回はその“胚をためることの意義”についてお話します。

「卵子の老化と治療における実態」

まず意義については、“質の良い卵子を確保するため”です。

以前当ブログでもご紹介しましたが、女性が一生のうちで持つ卵子の数は、生まれた瞬間が最も多く(厳密には生まれる前・胎児の時がピークです)、年齢を重ねるとともに数は減少し、卵子自体も老化していきます。卵子自体は新たに作られることは無い為、年齢を重ねるということはすなわち妊娠率の低下に直結します。

(図1: 公益社団法人日本産科婦人科学会 ART データブック2017 より)

このグラフは移植当たりの妊娠率を年齢別で表したものです。それぞれ凍結胚か新鮮胚か、3日目胚か5日目胚かで分けられています。上記グラフでは加齢による妊娠率の低下は顕著に表れており、34-35歳あたりで低下傾向になったのち、37歳を超えたあたりから低下のカーブが皆一様に大きくなることがわかります。

(図2: 公益社団法人日本産科婦人科学会 ART データブック2017 より)

こちらのグラフは妊娠率・生産率に加えて、流産率(グラフ:紫線)を表しています。年齢の増加によって妊娠・生産率が低下し、対して流産率は37歳あたりから増加しているのがわかります。

以上のことから、女性は37歳以上になると妊娠率の低下だけでなく流産率も増加していきます。これは加齢により卵子の染色体に異常が生じる確率が高くなり、かつ卵子数の減少に伴い正常な卵子が減少したためと考えられています。(当ブログリンク:染色体について)

(図3: Archived ART Reports and Spreadsheets 2016 より)

こちらはアメリカの年齢別ドナー/非ドナー卵移植時妊娠率を現したグラフです。自身の卵子で治療をした場合(グラフ:緑線)、年齢を重ねるにつれ妊娠率は低下していくのがわかります。一方で、ドナー卵子を用いた治療(グラフ:青線)では、移植される女性の年齢が上昇しても、年齢が比較的若い女性から採卵した卵子を使用しているため、一定の妊娠率をキープしています。以上のことから、年齢の増加に伴う妊娠率の低下は、加齢による卵の質の低下が大きな原因であることがわかります。もちろん不妊原因のほぼすべてが卵子の老化というわけではありません。卵子自体に問題はなくてもそれ以外の組織に異常があり、妊娠がしにくくなっている場合もあります。ですが卵子が老化すると卵子自体が、正常に受精できなかったり、受精後の成長がうまくいかなかったり、という可能性が高くなります。

<ではどうするか?>

卵子の老化は年齢を重ねるだけでなく下記の要因によって加速する可能性があります。

・過剰なストレス

・偏った食生活

・喫煙習慣

・睡眠不足

・過度なダイエット

・子宮や卵巣の病気

などがあげられます。総じていえば、生活習慣の不規則によって卵子の老化速度が上昇する可能性があります。現在治療されている方も老化をできるだけ避けるため、一度生活習慣を見直されるとよいかもしれません。

しかし、上記は健康や治療における大切な部分ではありますが、あくまで加齢の加速を防ぐというところでしかありません。加齢自体の予防法は無く、自身の加齢を止められないように、卵子の加齢を防ぐ治療等もありません。

そのため、「前もっての胚(受精卵)の凍結」は非常に重要な意義を持ちます。凍結胚は細胞自体の動きが生体内では考えられない「完全に停止した状態」となっているため、老化をはじめとする変化はありません。身体の加齢は完全に停止できませんが、凍結胚を保存しておくことで移植時より若い年齢時の胚を移植することができます。

<最後に>

以上、卵子の老化・貯卵の意味についてご紹介しました。染色体の異常だとか数の減少だとか、、、ご不安に思われたかもしれませんが、卵子の老化が見られても子供が生まれる可能性がゼロになるわけではありません。正常な染色体をもち、子として産まれてくる力を持つ卵子の割合は減少しますが、すべての卵子が正常でなくなるというわけではないのです。

老化は誰のせいでもありません。運動して空腹になるように、疲労で眠くなるように…、人が人として設計された時点で避けようのないものなのです。それら「生物の原理」と向き合い、対応していくことが大切なのだと思います。

 

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