培養室と胚培養士

当クリニックは、高度生殖医療(ART)を実施している不妊治療専門のクリニックです。
培養室は、皆様の大切な卵、受精卵、精子をお預かりする重要な場所です。培養室では不妊治療にかかわる下記の処置を行っています。

  • 精液検査
  • 人工授精に伴う精子調整
  • 体外受精、顕微授精
  • 受精卵(胚)や精子の凍結および融解(解凍)

これらの処置を行う医療スタッフを胚培養士もしくはエンブリオロジストと呼んでいます。普段、患者様にはご覧頂くことのできない当院の培養室内の様子についてご紹介致します。

胚培養士(エンブリオロジスト)

培養室

現在、10名の胚培養士が勤務しております。
胚培養士には医師や看護師のような国家資格はありませんが、日本卵子学会が認定している
「生殖補助医療胚培養士」という資格があります。当院では、6名が認定資格取得者で、他4名も資格取得に向け日々励んでいます。

設備・施設

顕微鏡やインキュベーターなどの機器を上手く扱うことは、卵子や精子の能力を最大限に発揮させるために重要で、胚培養士に求められるスキルの一つです。

タイムラプスインキュベーター

この機器では、培養した状態で受精卵(胚)を撮影し、動画として観察することができます。植物の成長や天体観測などその変化観察に長時間の時間を要するものを短時間で見るために使われてきました。近年、この技術が不妊治療に貢献できることが報告されています。

Casa Pribensbenszky et al., RBM online2017

タイムラプスインキュベーターによる受精判定について

1.受精判定について

体外受精や顕微授精をしてから約18~21時間後に受精判定を行います。

2.受精の種類

正常受精では二つの前核が確認できます。前核が三つ以上見られた場合は異常受精と判定します。一つの前核しか確認できなかった場合、"正常な二つの前核"が融合して一つとなったのか、異常受精ゆえ一つしかないのかの判断ができません。また、前核が一つも見られなかった場合は"未受精"と判断し、5時間程培養を続けます。その時点で細胞の分割が進んでいれば"受精"と判定するのですが、正常受精なのか異常受精なのか判断ができません。

3.タイムラプスインキュベーターでの受精判定

タイムラプスインキュベーターで受精判定を行う場合、現在の状況だけでなく時間を遡って胚の状態を観察することができるため、上記のような正常なのか異常なのかで迷うことがありません。今まで正常と判定されていた胚でも異常を見つけることができます。

タイムラプスインキュベーターなら・・・

タイムラプスインキュベーター 従来の培養器との比較

  タイムラプス 通常
培養環境 培養したまま胚の状態を観察できるため、移植や凍結をするまで一定の環境で培養することができる。 胚の状態を観察するために培養器から取り出さなければならいないため、培養環境が変化してしまう。
胚の観察 一定の間隔で撮影を行うため、培養士が見ていない時の状態を振り返って観察することができる。 決まった時間で観察を行うため、その瞬間の状態しかみることができない。
胚の評価 胚の成長過程の評価をスコアリングして、より妊娠の可能性が高い胚を選び出すことができる。 観察したその瞬間の細胞状態を見てグレード評価を行う。

上記のメリット、特に培養環境の向上によりタイムラプスインキュベーターによる培養で、着床率が約7~8%向上し、流産率が約6~9%低下したという報告があります。

当院では、採卵および体外受精/顕微授精後、受精確認までは全ての患者様の胚をタイムラプスインキュベーターで培養します。
その後のタイムラプスインキュベーターによる培養は患者様の希望制と致します。

費用
  • 自費診療:料金表をご確認ください。
  • 保険診療:タイムラプスは保険適用ではありませんが、先進医療として保険診療との併用が可能です(30,000円)。

※希望の有無は採卵当日(受精方法決定)までにお伝えください。それ以降の希望変更に関してはお受け致しかねます。 ※その時のタイムラプスインキュベーター使用状況によりご希望に添えない場合がございます。

顕微鏡


(左)検卵(卵胞液内に卵子があるか確認すること)や、胚凍結・融解などを行います。

(右)顕微授精(ICSI)や胚の観察を行います。


精液検査や人工授精に用いる精子調整で使用します。

インキュベーター


ドライインキュベーター:胚(受精卵)を培養します。


加湿型インキュベーター:主に培養液の準備に使用します。

胚凍結用タンク


胚凍結用タンク

非常用電源


急な停電が起こっても、培養中の胚に影響を及ぼさないよう備えています。

安全性

卵子や精子だけでは個人を識別することができないために、取り間違えを完全に防ぐことが私たち胚培養士の責務です。
全ての作業において安全性を維持するため、下記の対策を徹底しています。

取り間違え防止


胚を培養するディッシュには蓋だけではなくディッシュ本体にも患者様の氏名とIDを明記しています。


精子の調整時には、患者様ごとに色を分けたネームラベルを使用することで区別しています。
また、卵子、精子、胚を扱う際にはスタッフ二名で、氏名およびIDの指さし確認を行うことで取り間違えを防いでいます。

研究開発


関連学会にも積極的に参加、発表を行い、最新の知識や治療法を取り入れ、現状に満足せずより高い妊娠率を目指しています。



胚培養士求人について(現在は募集していません)。
詳しくは、エンブリオロジスト(胚培養士)の採用をご参照ください。